PMP で権力の種類が問われるのはなぜ?
プロジェクト・マネジャー(PM)は、必ずしもメンバーの上司ではありません。機能部門から借りてきたメンバー、協力会社、自分より役職の高いステークホルダーなど、命令できない相手と仕事を進めることがほとんどです。
新しい試験内容の概要(ECO 2026)の People 領域タスク4は「ステークホルダーを巻き込む」です。その例に「信頼を築き、ステークホルダーに影響を与えてプロジェクトの目標を達成する」が挙がっています(当サイトによる要約)。命令ではなく影響力で人を動かす力が、試験でも問われるということです。
どんな種類の力があり、どれを使うべきかを知っておくと、「PM がどう働きかけるべきか」を判断しやすくなります。
権力の5つの種類とは?
社会心理学者のジョン・フレンチとバートラム・レイヴンは1959年に、人が他人に影響を与える力の源を5つに分けました。PMP の学習でも、この5つが基本です。訳語は教材によって違うので、別の呼び方も添えます。
| 種類(別の呼び方) | 力の源 | PM の例 | 試験での評価 |
|---|---|---|---|
| 正当権力(公式権力・合法的権力) | 組織の中の役職や正式な任命 | プロジェクト憲章で与えられた PM の権限 | 使ってよいが、それだけでは協力は得にくい |
| 報酬権力(報酬力) | 相手に報酬や良い評価を与えられること | 成果を評価に反映する、表彰する | 適切に使えば効果的 |
| 強制権力(罰の権力・強制力) | 相手に罰や不利益を与えられること | 評価を下げる、担当から外すと伝える | 最後の手段。常用は誤り |
| 専門権力(専門力) | 知識・技能・経験 | 技術的な助言で信頼される | PMP で最もよいとされやすい |
| 同一化権力(準拠権力・準拠力) | 人柄や信頼から「この人のためなら」と思われること | 誠実さで慕われ、協力を得る | よいとされやすい |
レイヴンは後に、相手を納得させる情報を持っていることによる「情報の権力」を加えました。PMP 向けの教材の中には、人脈(関係)による権力、状況から生まれる権力なども加え、さらに細かく分けるものもあります。
名前の暗記より、その力が「どこから来て、相手にどう受け止められるか」を理解する方が役に立ちます。
公式な権力と個人的な権力はどう違う?
5つの権力は、大きく2つに分けられます。
公式な権力
- 含まれるもの正当権力・報酬権力・強制権力
- 力の源役職や任命から来る
- 持続性役職を離れると失われる
- 相手の反応従うが、心からの協力とは限らない
個人的な権力
- 含まれるもの専門権力・同一化権力
- 力の源本人の知識や人柄から来る
- 持続性役職がなくても持てる
- 相手の反応自発的な協力を引き出しやすい
PM が頼るべきは、主に個人的な権力。公式な権力は土台として使う。
公式な権力だけで人を動かそうとすると、相手は「言われたからやる」状態になります。最低限の仕事はしても、問題を早く知らせてくれたり、工夫を提案してくれたりはしにくくなります。個人的な権力は時間をかけて築くものですが、効果は長く続きます。
PMI が推す影響力の使い方は?
PMP の試験問題は、PMI(プロジェクトマネジメント協会)が重視する考え方に沿って作られています。協働、信頼、サーバントリーダーシップなどです。当サイトでは、影響力を次の順番で使うと整理しています。
- 1
聞く
相手の懸念と事情を聞く
- 2
根拠と利点を示す
専門性で説明し、相手にとっての利点を示す
- 3
交渉して合意する
互いに受け入れられる条件を探す
- 4
権限の範囲で決める
憲章で与えられた権限を、手続きとして使う
- 5
上に相談する
解けなければ、機能部門のマネジャーやスポンサーに相談する
罰で動かす強制は、規程違反や安全に関わるときの最後の手段。
- まず専門性と信頼で動かす: 根拠を示して説明する、相手の立場を理解して話す、約束を守る。
- 報酬は相手が価値を感じるものにする: 成果を認める、評価に反映するよう機能部門のマネジャーに伝える。何を報酬と感じるかは人によって違う(動機づけ理論の記事を参照)。
- 正当権力は手続きとして使う: 憲章で与えられた権限の範囲で決める。ただし、権限を盾に押し切らない。
- 強制は最後の手段: 規程違反や安全に関わる場合など、ほかの手が尽きたときに限る。最初の一手としては誤り。
権限の弱い PM はどう動けばよい?
組織の形によって、PM の権限は大きく変わります。機能部門の力が強い組織やマトリックス組織では、PM がメンバーの評価や配置を決められないことが多いです。マトリックス組織とは、メンバーが機能部門とプロジェクトの両方に所属する形です。
そうした場合の動き方は、次のとおりです。
- 機能部門のマネジャーと関係を築く: メンバーの時間を借りる相手なので、計画の早い段階から相談し、必要な人と期間を合意する。
- ステークホルダーの関心を知る: 相手にとってプロジェクトが何の役に立つかを示し、協力する理由を作る。
- 交渉で合意を作る: 一方的に要求せず、互いに受け入れられる条件を探す。
- 専門性と誠実さで信頼を積む: 約束を守り、情報を正直に共有する。
ステークホルダーへの働きかけ方の全体は、ステークホルダーエンゲージメントの記事で解説しています。
試験ではどう問われる?
権力の問題は、名前を問う形よりも、状況の中で「どう働きかけるか」を問う形が多いと考えられます。誤りの選択肢には、罰をちらつかせる、役職を理由に押し切る、スポンサーの名前を使って圧力をかける、などがよく使われます。
正解になりやすいのは、相手の懸念を聞く、根拠を示して説明する、相手にとっての利点を示す、関係者と交渉して合意する、といった選択肢です。影響力の問題は、無料模試30問の People の問題でも試せます。
確認問題1
機能部門のメンバーが作業を後回しにする
(当サイトの独自問題)マトリックス組織のプロジェクトで、経理部から参加しているメンバーが、部の通常業務を優先しています。プロジェクトの作業は、何度も後回しにされています。PM には、このメンバーの評価権限がありません。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:4。権限の弱い PM は、本人と、メンバーの時間を管理する機能部門のマネジャーの両方と話し、作業時間の配分を合意し直します。本人が通常業務を優先せざるをえない事情も分かります。
1:評価権限がないうえ、強制の権力に頼る行動です。2:スポンサーの名前を使って圧力をかけると、関係を損ねます。3:原因を確かめずに担当を替えると、経理の知識を持つ人を失います。
確認問題2
新任の PM が協力を得られない
(当サイトの独自問題)他社から転職してきたばかりの PM が、社内の大規模なプロジェクトを任されました。プロジェクト憲章で、PM として正式に任命されています。ところがベテランのメンバーたちは「よそから来た人」として距離を置き、会議でも意見を出しません。PM が協力を得るために最も効果的な方法はどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:3。正式な任命(正当権力)だけでは、心からの協力は得にくいです。メンバーの経験を尊重し、約束を守る行動で信頼を築けば、同一化権力や専門権力による影響力が育ちます。
1:役職を盾にすると、さらに距離が開きます。2:報酬で協力を買うのは一時的で、そもそも約束できる立場かも分かりません。4:自分で関係を築く前にスポンサーに頼ると、PM の信頼はかえって下がります。
確認問題3
専門家として信頼されている PM
(当サイトの独自問題)ある PM は、データ分析の分野で長い経験があります。チームのメンバーは、技術的な判断に迷うと PM の助言を求めにきます。PM の役職や評価権限を理由に頼っているわけではありません。このとき PM がメンバーに対して持っている権力の種類として、最も適切なものはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:2。知識や経験を理由に相手が頼ってくるのは、専門権力です。役職や評価権限によらない個人的な権力で、PMP では最もよいとされやすい種類です。
1:正当権力は、役職や任命から来る力です。3:報酬権力は、報酬や評価を与えられることから来る力です。4:強制権力は罰を与えられることから来る力で、問題文の状況とは関係がありません。