マトリックス組織とは?
マトリックス組織は、部門(機能)のラインと、プロジェクトのラインを掛け合わせた組織です。縦に開発部や品質保証部などの部門があり、そこに横からプロジェクトが通ります。
メンバーは、部門に所属したままプロジェクトの仕事もします。そのため、部門の上司(部門の管理者)と、プロジェクト・マネジャー(PM)の両方に報告します。「上司が2人いる組織」と言われるのは、このためです。
マトリックス(matrix)は、行と列でできた表のことです。部門とプロジェクトが、表の縦と横のように交わります。小さな例で見てみます。
| プロジェクト\部門 | 開発部 | 品質保証部 | 営業部 |
|---|---|---|---|
| プロジェクトA(PM:佐藤) | 田中 | 鈴木 | — |
| プロジェクトB(PM:高橋) | 伊藤 | 鈴木 | 山本 |
この例の鈴木さんには、品質保証部の部門長と、2人のPMから仕事の依頼が来ます。専門家を無駄なく使える一方で、誰の依頼を先にするかで迷いやすい形です。
ほかの組織の形とどう違う?
プロジェクトが置かれる組織の形を、マトリックス組織と並べて比べます。
| 組織の形 | 分け方 | メンバーの上司 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 機能型 | 仕事の種類(部門)で分ける | 部門の管理者だけ | 部門の中で完結する仕事が多い |
| 事業部制 | 製品・地域・顧客ごとに事業部を置く | 事業部の長 | 事業ごとに素早く判断したい |
| プロジェクト型 | プロジェクトごとにチームを作る | PM | 大きく長いプロジェクトが続く |
| マトリックス | 部門とプロジェクトを掛け合わせる | 部門の管理者とPMの2人 | 部門をまたぐプロジェクトが多い |
プロジェクト型では、プロジェクトが終わるとチームは解散します。マトリックス組織では、メンバーは部門に籍を置いたままなので、終わった後も戻る場所があります。
実際の組織は、これらを組み合わせていることがほとんどです。同じ会社でも、重要なプロジェクトだけ専任のチームを作ることがあります。
マトリックス組織の3類型(弱・バランス・強)の違いは?
マトリックス組織は、部門とプロジェクトのどちらが強い力を持つかで、3つに分けられます。
- プロジェクト型PMがチームの上司。予算と人を管理する権限:大
- 強いマトリックス専任のPMがいて、予算と優先順位に大きな権限を持つ大きめ
- バランス型マトリックスPMと部門の管理者が権限を分け合う中
- 弱いマトリックスPMは調整役に近い。決める権限は部門の管理者にある小さめ
- 機能型部門の管理者が決める。PMの役割は小さいか、置かれない権限:小
当サイトの整理。実際の権限は組織ごとに違うので、プロジェクト憲章や体制図で確かめます。
弱いマトリックスでは、PMは「調整役」「進行役」と呼ばれることもあります。情報をまとめ、関係者の間をつなぐのが主な仕事です。メンバーに作業を割り当てる権限は、部門の管理者にあります。
強いマトリックスでは、PMは専任の職で、プロジェクトの予算を管理します。メンバーも、プロジェクトの仕事に多くの時間を割きます。
PMの権限はどう違う?表で比べる
PMが何を決められるかを、組織の形ごとに比べます。
| 比べる点 | 機能型・弱いマトリックス | バランス型 | 強いマトリックス・プロジェクト型 |
|---|---|---|---|
| PMの立場 | 兼任が多い。調整役 | 専任のことが多い | 専任 |
| 予算を管理する人 | 部門の管理者 | PMと部門の管理者が分担 | PM |
| メンバーの作業の割り当て | 部門の管理者 | 話し合って決める | PMが中心 |
| メンバーの評価 | 部門の管理者 | 両者の意見を合わせる | PMの意見の比重が大きい |
| 起きやすい問題 | PMの依頼が後回しにされる | 優先順位の衝突 | プロジェクト終了後のメンバーの戻り先 |
表はあくまで目安です。試験問題では、組織の形の名前が出ないこともあります。その場合は、問題文の記述から権限の大きさを読み取ります。読み取り方は、後の章で手順にしています。
マトリックス組織のメリットとデメリットは?
マトリックス組織は、機能型とプロジェクト型の良いところを両方取ろうとする形です。そのぶん、運用には手間がかかります。
メリット
- 専門家を複数のプロジェクトで共有できる
- 部門に専門性とノウハウが残る
- プロジェクトが終わっても、メンバーに戻る場所がある
- 部門をまたぐ情報が集まりやすい
デメリット
- 上司が2人いて、指示と優先順位がぶつかる
- 誰が決めるのかがあいまいになりやすい
- 調整の会議や報告が増える
- メンバーの評価が難しい
当サイトの整理。
デメリットの多くは、役割と権限が決まっていないことから起きます。誰が何を決め、誰に何を報告するかを、責任分担表で先に決めておくと防げます(RACIチャートの作り方)。
メンバーの評価も、部門の管理者とPMのどちらがどう関わるかを、プロジェクトの初めに合意しておきます。
マトリックス組織で起きる対立はどう解く?
一番の弱点は、メンバーに上司が2人いることです。部門の仕事とプロジェクトの仕事が重なると、メンバーはどちらを優先すべきか迷います。対立を解く手順は、次のとおりです。
- 事実を集める:どの作業が、いつ、どれだけ遅れているか。原因は時間の不足か、優先順位の衝突か。
- メンバー本人と話す:板挟みになっている状況を聞く。本人を責めない。
- 部門の管理者と話し合う:プロジェクトへの影響を示し、時間の割り当てや優先順位を一緒に決める。
- 合意を記録する:割り当ての時間や期間を、資源の計画に反映する(資源マネジメント計画の作り方)。
- 解決できないときは上げる:決めておいたしきい値や経路に沿って、スポンサーなどに判断を仰ぐ。
いきなりスポンサーや経営陣に訴えるのは、PMP試験では多くの場合誤りです。まず当事者どうしで話し合い、それでも解決できないときに上げます。上げる基準はエスカレーションの判断で整理しています。
2026年版の出題範囲(ECO)では、ガバナンスの構造やエスカレーションの経路を決めること(Business Environment 1)が含まれます。組織の文化を評価し、組織の変化がプロジェクトに与える影響を見極めること(Business Environment 7)も関係します。
問題文から組織の形をどう見分ける?
PMP試験の問題文に「弱いマトリックス」と書かれていないこともあります。そのときは、次の3つを順に確かめます。
- PMは専任か、兼任か:ほかの業務と兼任なら、弱いマトリックスか機能型に近い。
- 予算を管理・承認するのは誰か:部門の管理者なら権限は小さく、PMなら大きい。
- 作業の割り当てと評価を決めるのは誰か:部門の管理者か、話し合いか、PMか。
答えが部門の管理者とPMに分かれる場合は、権限を分け合うバランス型に近いと読めます。権限が小さいと読めたら、PMが自分で決める選択肢より、権限を持つ人と調整する選択肢を選びます。
PMP試験ではどう問われる?
よく出るのは、次のような場面です。
- メンバーが部門の仕事を優先して、プロジェクトの作業が遅れている → 部門の管理者と話し合う
- 弱いマトリックスで、PMが資源を確保できない → 権限を持つ人(部門の管理者やスポンサー)と調整する
- 体制を決めるとき、誰が何を承認するかがあいまい → 役割と権限を明確にし、記録する
よくある誤答は、権限を超える行動です。たとえば、弱いマトリックスなのにメンバーに直接命じる選択肢です。部門の管理者と話す前に経営陣に訴える選択肢や、合意なしにメンバーを交代させる選択肢も誤りになります。
プロジェクトそのものの定義や、定常業務との違いはプロジェクトとは?で確認できます。
確認問題1
部門の仕事を優先するメンバー
(当サイトの独自問題)バランス型マトリックスの組織で、データ分析の担当者がプロジェクトの作業を2週続けて終えていない。本人に話を聞くと、部門長から、所属部門の月末の仕事を優先するよう指示されていたことが分かった。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:3。バランス型マトリックスでは、メンバーの時間は部門長とプロジェクト・マネジャーが分け合っています。部門長の指示とぶつかっているので、部門長と話し合い、時間の割り当てを一緒に決め直すのが先です。
1:板挟みの本人に頼んでも、部門長の指示との衝突は解けません。2:当事者の部門長と話す前に上げるのは早すぎます。4:部門長と話さずに交代を申請するのは手順が逆で、関係も悪くなります。
確認問題2
PMの権限を読み取る
(当サイトの独自問題)ある組織では、プロジェクト・マネジャーは他の業務と兼任で、予算は各部門の管理者が持っている。メンバーへの作業の割り当ても部門の管理者が行う。この組織の形として、最も近いものはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:1。PMが兼任で、予算と作業の割り当てを部門の管理者が持つのは、弱いマトリックス組織の特徴です。機能型組織にも近い形ですが、選択肢の中では弱いマトリックスが最も近くなります。
2・3:PMが専任で、予算に大きな権限を持つ形です。4:PMと部門の管理者が権限を分け合う形で、PMが予算に関われないこの組織とは違います。
確認問題3
組織変更がプロジェクトに与える影響
(当サイトの独自問題)プロジェクトの途中で、会社が機能型の組織から強いマトリックス組織へ移ると発表した。来月から、メンバーの評価にプロジェクト・マネジャーの意見が反映されるようになる。メンバーの中には、評価の仕組みが変わることへの不安の声がある。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:4。組織の変化は、チームの士気や働き方に影響します。影響を評価し、メンバーの不安を聞いて、役割の説明や評価の進め方の共有など、必要な対応を決めます。
1:変更の後まで不安を放っておくと、士気の低下や離職につながります。2:評価の仕組みは会社が決めるもので、プロジェクトで独自の方法を作る権限はありません。3:組織の決定を変える権限はなく、メンバーの不安を解くことにもなりません。
POINT
組織の文化や体制の変化を扱う問題は、Business Environment の領域で出ます。タスク別ドリルで練習できます。