費用便益分析とは?
費用便益分析(Cost-Benefit Analysis)は、プロジェクトから得られる便益(売上の増加・費用の削減など)と、そのためにかかる費用を、お金の単位でそろえて比べる方法です。
プロジェクトを始める前には、ビジネスケースの中で「この投資に見合う価値があるか」を説明する根拠に使います。始めた後も、便益の見込みが変わっていないかを確かめる物差しになります。
ECO 2026年版では、Process タスク3「価値ベースのデリバリーを確実に支援する」に、プロジェクトを通じたビジネス価値の確認が含まれます。Business Environment タスク1「プロジェクト・ガバナンスの定義と確立」には、成功の指標を決めることが含まれます。費用便益分析は、この両方に関わる道具です。
POINT
便益と費用が何年にもわたって出る場合は、将来の金額を現在の価値に割り引いてから比べます。割引の考え方は NPV(正味現在価値)の計算とIRR で扱っています。この記事の例では、すでに現在価値にそろえた金額を使います。
費用便益分析はどんな手順で進める?
費用便益分析は、計算の前の準備が結果を左右します。流れは次のとおりです。
- 1
目的と比べる案を決める
何を判断するかを決め、「現状維持」も比べる案に入れる
- 2
費用と便益を洗い出す
初期費用・運用費、売上の増加・費用の削減など
- 3
金額にする
時間の短縮は人件費に、ミスの減少は手直しの費用に置きかえる
- 4
現在価値にそろえる
何年にもわたる金額は、割引率で今の価値に直す
- 5
比べて提案する
BCR・純便益を出し、前提と、外れたときの影響を添える
当サイトの整理
「現状維持」も比べる案に入れるのがポイントです。何もしない場合にかかり続ける費用や、失う機会が見えるからです。
費用と便益には何を数える?
| 種類 | 例 | 金額にする方法(例) |
|---|---|---|
| 初期の費用 | 開発・購入、導入作業、データ移行、研修 | 見積りの金額 |
| 運用の費用 | 保守、ライセンス、運用の人件費 | 1年あたりの金額 × 年数 |
| 目に見える便益 | 売上の増加、作業時間の短縮、外注費の削減 | 短縮した時間 × 時間単価 など |
| 金額にしにくい便益 | 顧客満足、安全性、従業員の負担の軽減 | 評価表で点数にして、別に示す |
よくある漏れは、運用の費用と、導入した後の研修です。便益を5年分数えるのに費用を初年度分しか数えないと、BCR は実際より大きく出ます。
BCR(便益費用比)はどう計算する?
BCR(Benefit-Cost Ratio)は、便益を費用で割った値です。
BCR = 便益(の現在価値) ÷ 費用(の現在価値)
- 1便益 = 1,500万円、費用 = 1,000万円
- 2BCR = 1,500 ÷ 1,000 = 1.5
- 3純便益(便益 − 費用)= 1,500 − 1,000 = 500万円
BCR 1.5:費用1円あたり1.5円の便益
当サイトの架空の例
| BCR | 意味 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 1より大きい | 便益が費用を上回る | 実施する価値がある |
| ちょうど1 | 便益と費用が同じ | 金銭面では損も得もない |
| 1より小さい | 費用が便益を上回る | 金銭面だけなら見送る |
「費用 ÷ 便益」と逆に割らないよう注意してください。名前は「便益費用比」で、便益が先(分子)です。
ROI(投資利益率)を「(便益 − 費用) ÷ 費用」で出す場合、その値は BCR から1を引いたものと同じです。BCR 1.5 なら、ROI は0.5(50%)です。
複数の候補からはどう選ぶ?
(当サイトの架空の例)3つの候補から1つを選ぶ場面で考えます。金額は、現在価値にそろえてあります。
| 候補 | 便益 | 費用 | BCR | 純便益 |
|---|---|---|---|---|
| A:受注システム刷新 | 1,500万円 | 1,000万円 | 1.50 | 500万円 |
| B:倉庫の自動化 | 900万円 | 500万円 | 1.80 | 400万円 |
| C:新店舗の出店 | 1,200万円 | 1,300万円 | 約0.92 | −100万円 |
PMP の問題で「BCR が示されていて、どれを選ぶか」と聞かれたら、BCR が最も大きいものを選ぶのが基本です。この例では B(1.80)です。C は1未満なので、金銭面では見送りです。
BCRと純便益で結論が違うときは?
上の例では、純便益は A(500万円)の方が B(400万円)より大きくなっています。BCR は「効率」を、純便益や NPV は「規模」を表すので、結論が分かれることがあります。
BCR(効率)で選ぶ
- 例題で選ぶ候補B(BCR 1.80)
- 向く状況予算に限りがあり、残りのお金を別の投資に回せる
- 考え方費用1円あたりの便益を最大にする
純便益・NPV(規模)で選ぶ
- 例題で選ぶ候補A(純便益 500万円)
- 向く状況予算に余裕があり、得られる価値の総額を重視する
- 考え方便益から費用を引いた額を最大にする
問題文に予算の制約が書かれていれば効率、価値の総額を重視するとあれば規模を重く見ます。
当サイトの整理
他の指標とどう組み合わせる?
| 指標 | 表すもの | 選び方 |
|---|---|---|
| BCR | 費用1円あたりの便益(効率) | 大きい方 |
| ROI(投資利益率) | 費用に対するもうけの割合 | 大きい方 |
| NPV(正味現在価値) | 割り引いた後の、便益から費用を引いた額(規模) | 大きい方(0より大きいこと) |
| IRR(内部収益率) | 投資の利回り | 大きい方 |
| 回収期間 | 投資を回収するまでの年数 | 短い方 |
| 機会費用 | 選ばなかった候補のうち最大の価値 | 判断の際に考慮する |
機会費用は、ある候補を選んだときに、あきらめた候補から得られたはずの価値です。A と B のどちらか一方しか選べず A を選んだなら、機会費用は B の価値です。
金銭以外の要素(法令への対応、戦略との整合、リスク)も判断に入ります。法令で求められる対応は、BCR が1未満でも実施することがあります。
例題で確認
(当サイトの独自例題)研修システムの導入で、5年間の便益の現在価値が3,600万円、費用の現在価値が2,400万円と見積もられました。BCR と純便益を求め、実施の判断を示してください。
BCR = 3,600 ÷ 2,400
- 1BCR = 3,600 ÷ 2,400 = 1.5
- 2純便益 = 3,600 − 2,400 = 1,200万円
- 3BCR > 1、純便益 > 0
金銭面では実施する価値がある
当サイトの架空の例
費用便益分析の限界は?
費用便益分析は分かりやすい反面、次の弱点があります。結果を伝えるときは、あわせて説明します。
- 金額にできない価値が抜ける:安全や満足度は、別の評価と組み合わせて示します。
- 前提で結果が大きく変わる:便益の見込みや割引率が少し変わるだけで、BCR が1をまたぐこともあります。前提を明記し、外れた場合の BCR も示します。
- 規模が見えない:BCR は効率の指標です。総額は、純便益や NPV で見ます。
確認問題1
ビジネスケースのBCR
(当サイトの独自問題)スポンサーから、ビジネスケースに BCR を記載するよう依頼されました。財務部門の試算では、便益の現在価値は2,400万円、費用の現在価値は1,600万円です。記載すべき BCR はどれか(小数第3位を四捨五入)。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:4。BCR = 便益 ÷ 費用 = 2,400 ÷ 1,600 = 1.5 です。
1:費用 ÷ 便益と、逆に割っています。2:純便益(便益 − 費用)で、比ではありません。3:純便益 ÷ 費用(800 ÷ 1,600)で、BCR ではありません。
確認問題2
候補から1つを選ぶ
(当サイトの独自問題)運営委員会(ステアリング・コミッティ)は、今期は1つのプロジェクトしか承認できないと決めました。プロジェクト・マネジャーは、4つの候補の BCR を比較資料にまとめています。金銭面の指標だけで判断する場合、推薦すべき候補はどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:3。BCR が最も大きい1.6の候補が、費用に対する便益の効率が最も高い候補です。
1・4:1より大きいですが、1.6より効率が低い候補です。2:1未満で、費用が便益を上回ります。
確認問題3
途中でBCRが1を下回りそう
(当サイトの独自問題)プロジェクトの実行中に、競合他社が同じ機能を無料で提供し始めました。マーケティング部門の再試算では、便益の見込みが大きく下がり、BCR は当初の1.4から0.9程度になる見込みです。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:1。便益の前提が変わったので、続けるべきかをガバナンスで判断してもらう必要があります。プロジェクト・マネジャーは事実と影響を整理し、スポンサーにビジネスケースの見直しを提起します。
2:価値が見込めない投資を続けるおそれがあり、スポンサーへの透明性にも欠けます。3:スコープの変更は承認なしにはできず、報告も遅れます。4:中止はスポンサーやガバナンスが決めることで、プロジェクト・マネジャーが始めるものではありません。
次に何をすればいい?
BCR は割り算1回で解けるので、確実に取りたい問題です。そのうえで、NPV・回収期間との違いを説明できるようにしておくと、選定の問題で迷いません。計算全体の地図は PMPの計算問題の公式一覧 にあります。
費用便益分析の結果は、ビジネスケースにまとめて判断に使います。作り方と途中の見直しは ビジネスケースとは? で解説しています。選定やビジネスケースの判断を状況問題で練習したい人は、無料模試30問から試してください。