心理的安全性とは?
心理的安全性(psychological safety)という言葉は、以前から組織研究で使われていました。チーム単位の考え方として広まったきっかけは、組織行動学者のエイミー・エドモンドソンが1999年に発表した論文です。チームの学習行動との関係を調べたものでした。
エドモンドソンは心理的安全性を、「このチームでは対人関係のリスクをとっても安全だ」とメンバーが共有している信念として説明しました。
対人関係のリスクとは、質問する、分からないと言う、反対意見を言う、失敗を報告する、助けを求める、といった行動のことです。周りからどう見られるかが気になり、安全だと感じられないチームでは控えられてしまいます。
プロジェクトでは、問題が早く報告されるかどうかが結果を大きく左右します。心理的安全性が低いと、遅れや不具合が隠され、発覚したときには手遅れ、ということが起きやすくなります。
Google が社内の180のチームを調べた研究(Project Aristotle)でも、効果的なチームの5つの条件のうち、重要度の順で最初に挙がったのが心理的安全性でした。
なぜ発言をためらう?4つの不安
エドモンドソンは、職場で人が恐れる「見られ方のリスク」を4つに整理しています。どれも、学びに欠かせない行動の裏側にあります。
| 不安(どう見られるか) | 控えてしまう行動 | プロジェクトで起きること |
|---|---|---|
| 無知だと思われる | 質問する、情報を求める | 前提の誤解に気づかないまま作業が進む |
| 無能だと思われる | 失敗を認める、助けを求める | 遅れや不具合の報告が期限の直前になる |
| 否定的だと思われる | 今のやり方や計画を批判する | ふりかえりで本当の問題が出てこない |
| 邪魔だと思われる | 相手の時間をもらって相談する、意見を求める | 一人で抱え込み、手戻りが大きくなる |
PM の打ち手は、この4つの不安を一つずつ小さくすることです。質問を歓迎すれば「無知」の不安が、失敗を責めなければ「無能」の不安が減ります。
心理的安全性は「ぬるい職場」とどう違う?
よくある誤解は、心理的安全性を「厳しいことを言わない」「仲良しで居心地がよい」状態だと考えることです。実際は逆で、心理的安全性が高いチームほど、率直な意見や厳しい指摘が出やすくなります。
心理的安全性が低い
- 目標が低いとき目標が低い:無関心。言われたことだけする
- 目標が高いとき目標が高い:不安。失敗を隠し、報告が遅れる
心理的安全性が高い
- 目標が低いとき目標が低い:居心地はよいが、成長しにくい
- 目標が高いとき目標が高い:率直に議論し、学びながら成果を出す
目指すのは「心理的安全性が高く、目標も高い」チーム。
エドモンドソンも、心理的安全性と高い責任がそろった状態を「学習ゾーン」と呼んでいます。心理的安全性は、基準を下げることではありません。
心理的安全性が低いチームにはどんな兆候がある?
次のような様子が見られたら、心理的安全性が下がっている可能性があります。
- 会議で発言するのがいつも同じ人で、ほかの人は黙っている。
- 「質問はありますか」と聞いても、誰も手を挙げない。
- 進捗報告がいつも「順調です」で、遅れが期限の直前に発覚する。
- 失敗が起きると、まず「誰がやったのか」が話題になる。
- 会議の後に、廊下やチャットの個別のやりとりで本音が出る。
- 新しいアイデアや改善の提案が出てこない。
チームの成長段階との関係も見ておきましょう。立ち上げ直後の形成期は、遠慮から発言が少ないのが普通です。混乱期に対立を建設的に越えられるかは、心理的安全性に大きく左右されます。段階の詳細はタックマンモデルの記事で解説しています。
チームの心理的安全性はどう測る?7つの問い
エドモンドソンは1999年の論文で、7つの問いを使ってチームの心理的安全性を測りました。当サイトの要約で示します(※は、当てはまるほど心理的安全性が低いことを示す問い)。
- ※このチームでミスをすると、責められることが多い。
- このチームでは、問題や難しい課題を話題にできる。
- ※このチームでは、自分たちと違う人を受け入れないことがある。
- このチームでは、リスクをとって挑戦しても大丈夫だ。
- ※このチームでは、ほかのメンバーに助けを求めにくい。
- このチームに、わざと私の努力を台無しにする人はいない。
- このチームでは、私の得意なことが認められ、生かされている。
実務で使うなら、匿名のアンケートにして、数か月ごとに同じ問いで変化を見ると、チームの状態をつかみやすくなります。結果を個人の評価に使わないことが前提です。
PM は心理的安全性をどう高める?5つの行動
心理的安全性は、リーダーの日々の振る舞いで大きく変わります。プロジェクト・マネジャー(PM)ができる行動を5つにまとめました(当サイトの整理)。
- 自分の失敗や分からないことを先に話す: リーダーが弱みを見せると、メンバーも言いやすくなる。
- 質問と反対意見を歓迎する: 「いい質問ですね」「反対の視点をありがとう」と、発言そのものを認める。
- 失敗を学びとして扱う: 「誰が」ではなく「何が起きて、どう防ぐか」を話す。
- 発言の機会を配る: 一人ずつ意見を聞く、事前に書いてもらう、など声の小さい人も話せる工夫をする。
- 悪い知らせに感謝する: 遅れや不具合を早く報告した人を責めず、早く言ってくれたことに感謝する。
どれも特別な道具は要りません。ただし一度でも、悪い報告をした人を人前で責めると、それまでの積み重ねが崩れます。一貫して続けることが大切です。感情への気づきと対応は、感情的知性(EI)の記事も参考になります。
アジャイルのふりかえりとどう関係する?
アジャイルでは、チームが定期的に自分たちの進め方を見直し、改善します。スクラムではスプリントレトロスペクティブ(ふりかえり)がその場です。うまくいかなかったことを率直に話せなければ、ふりかえりは意味を持ちません。心理的安全性は、ふりかえりが機能するための前提です。
ふりかえりで心理的安全性を保つ工夫には、次のようなものがあります。
- 個人の責任追及ではなく、仕組みや進め方に目を向ける。
- 付せんや匿名の書き込みで、言いにくいことも出しやすくする。
- 話し合った改善策を実際に実行し、言えば変わると実感してもらう。
予測型でも同じことが言えます。進捗報告やリスクを洗い出す場で本音が出なければ、問題の発見が遅れます。ふりかえりの進め方はスプリントレトロスペクティブの記事で解説しています。
PMP 試験ではどう問われる?
試験内容の概要(ECO 2026)には「心理的安全性」という言葉は出てきません。ただし People タスク3「チームを率いる」には、チームの多様な経験・技能・視点を支える、チームに権限を委ねる、といった例が挙がっています。多様な意見を引き出すには、心理的安全性が欠かせません。
試験では、次のような行動が正解になりやすいと当サイトは見ています。
- 問題を報告したメンバーを責めず、まず感謝して原因と対策を一緒に考える。
- 会議で発言しないメンバーには、1対1で話を聞くなど、発言しやすい機会を作る。
- 失敗の原因を個人ではなく、プロセスや仕組みの面から分析する。
リーダーとしての振る舞い全体はPMPのリーダーシップスタイルにまとめています。この種の判断は、タスク別ドリルで People のタスクを続けて解くと身につきやすくなります。
確認問題1
遅れを報告したメンバーへの対応
(当サイトの独自問題)予測型のプロジェクトで、あるメンバーが「担当の作業が5日遅れそうだ」と定例会議で報告しました。同席したスポンサーは不満そうな顔をしています。このチームでは、これまで遅れが期限の直前まで報告されないことが多くありました。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:4。早い報告を責めると、今後また報告が遅れるようになります。まず早く言ってくれたことに感謝し、影響と対策を一緒に考えて、問題を早く言える雰囲気を守ります。
1:人前で責任を問うと、心理的安全性が下がります。2:原因も確かめずに担当を替えると、報告すると仕事を外されると受け止められます。3:原因を確かめずに、本人に負担を押しつけています。
確認問題2
ふりかえりで発言しないメンバーがいる
(当サイトの独自問題)アジャイルチームのふりかえりで、毎回同じ2人だけが意見を言い、ほかのメンバーはほとんど発言しません。あとで個別に話すと、発言しないメンバーにも改善のアイデアはあるようです。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:1。アイデアはあるのに言えていないので、言いやすい進め方に変えるのが適切です。先に書いてもらえば、声の大きさに関係なく意見が出ます。
2:発言を求めるだけでは、言いにくさの原因が残り、かえって緊張を高めます。3:よく発言する人の意見を封じるのは、別の形で心理的安全性を下げます。4:参加を任意にしてチャットで集めても、話し合いで意見を深めて改善を決める場にならず、2人だけが話す進め方の問題も残ります。
確認問題3
本番で障害が起きた後のふりかえり
(当サイトの独自問題)リリース直後に本番環境で障害が起き、原因はあるメンバーの設定ミスでした。障害はすでに復旧しています。スポンサーは「誰のミスか、はっきりさせてほしい」と言っています。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
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正解:3。失敗は個人を責めるより、ミスが起きた仕組み(確認の手順、自動化の不足など)を見直す機会にします。スポンサーには、再発防止策とあわせて経緯を報告します。
1:個人の特定と報告に向かうと、今後ミスが隠されやすくなります。2:原因の仕組みを確かめないまま人を外しても、別の人が同じミスをするおそれがあります。4:学びの機会を逃し、再発防止もできません。